エステティシャンを辞めた人が「もう一度やりたい」と思う瞬間について

はじめまして、宮下早紀と申します。

美容専門学校を出てからエステティックサロンで6年ほど働き、店長代理まで務めたところで結婚と出産を機に退職しました。
数年のブランクを経て「そろそろ戻ろうかな」と動き出したとき、思っていた以上に壁が厚くて驚いた記憶があります。

いまは美容・サービス業界に特化した人材紹介会社で、キャリアアドバイザーとして年間200名ほどの女性の相談を受けています。

その中で、本当によく聞く言葉があります。

「辞めたときは、もう二度とやらないと思っていたんです」
「でも最近、また現場に立ちたくなってきて」

この2つを続けて話す方が、驚くほど多いんです。

この記事では、エステティシャンを辞めた人がどんな瞬間に「もう一度やりたい」と感じるのか、そしてその気持ちをどう扱えばいいのかを、相談現場で見てきたことと公的なデータの両方から整理していきます。

戻るかどうかを決める記事ではありません。
戻りたい気持ちが自分の中に出てきたときに、それを冷静に見つめるための材料をお渡しできればと思っています。

辞めた人が戻りたくなるのは、まったく珍しいことではありません

まず、前提の話をさせてください。

「一度辞めたのに戻りたいなんて、自分は中途半端なのでは」と気にされる方がいます。
そんなことはありません。

数字を見ると、この業界は人の出入りがもともと多い場所です。

厚生労働省の「令和6年雇用動向調査結果の概況」によると、エステティックサロンが属する生活関連サービス業・娯楽業の一般労働者は、離職率16.9%に対して入職率が17.0%でした。
全産業の平均は離職11.5%・入職11.8%ですから、出ていく人も入ってくる人も、平均よりかなり多い業界だとわかります。

つまり「辞める人が多い」だけでなく「入ってくる人も多い」。
戻ってくる人が紛れ込む余地は、統計上もちゃんとあるということです。

女性が仕事を離れる理由の中身

同じ調査では、離職理由の内訳も出ています。

結婚・出産育児・介護看護などを含む「個人的理由」による離職率は、全体で10.7%、男性8.8%に対して女性は12.9%。
女性のほうが明確に高い数字です。

これは能力の問題でも意欲の問題でもなく、ライフイベントが仕事の継続に直撃しやすい構造がある、というだけの話です。

一方で、出産後も働き続ける人は着実に増えています。

国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査によると、第1子出産前後の妻の就業継続率は5割台から7割へと上昇し、2015年から2019年に出産した層では69.5%に達しました。
そのうち79.2%が育児休業制度を利用しています。

裏を返せば、いまも約3割の女性は第1子の出産を機に仕事を離れているということでもあります。

あなたが辞めたことは、例外的な出来事ではありません。

「もう一度やりたい」と思う瞬間には、いくつかの型があります

相談を受けていると、復職を考え始めたきっかけが驚くほど似通っていることに気づきます。

代表的なものを5つ挙げます。

誰かの肌に触れたとき

一番多いのがこれです。

母親の肩を揉んだ、友人の顔にクリームを塗ってあげた、子どもの背中をさすった。
そのときに手が勝手に動いて、「あ、まだ覚えてる」と思った、という話を何度聞いたかわかりません。

手技は身体で覚えているので、頭で忘れたつもりでも指先が反応します。
この感覚に出会うと、多くの人が自分の中の熱が消えていなかったことに気づきます。

客としてサロンの椅子に座ったとき

久しぶりに自分がお客さんとして施術を受けたとき、というパターンもよくあります。

ここは2つに割れます。

  • 「やっぱりプロの手はすごい、自分もこちら側に戻りたい」と憧れが再燃するケース
  • 「自分ならこうするのに」と物足りなさを感じて、逆に火がつくケース

どちらも入口は違いますが、行き着く場所は同じです。
自分がこの仕事を評価する目を持ち続けていた、という発見です。

子どもの手が少し離れたとき

これは時期の問題です。

下の子が幼稚園や保育園に入った、小学校に上がった。
毎日の生活に数時間の余白ができた瞬間に、「この時間で何かできないか」と考え始める方が多いです。

このタイミングで相談に来られる方は、感情ではなく計算から入っているぶん、話が具体的です。

別の仕事に就いてみて「これじゃない」と感じたとき

事務職やコールセンターなど、時間の融通が利く仕事に転職された方からよく聞きます。

条件は確かに良くなった。
でも、目の前の人が変わっていく手応えがない。

エステティシャンの仕事は、施術前と施術後でお客さまの表情が変わります。
その即時性に慣れた人にとって、成果が見えにくい仕事はどうしても物足りなく感じられるようです。

昔のお客さまや同僚から声をかけられたとき

「あのときの施術、まだ覚えてます」
「戻ってこないの?」

こういう一言が、思っている以上に効きます。

自分の仕事が誰かの記憶に残っていたと知ることは、ブランク中に薄れていた自己評価を一気に押し戻します。

この5つのどれかに心当たりがあるなら、その気持ちは一時的な感傷ではない可能性が高いです。

戻りたい気持ちを止めている、4つの不安

ただ、戻りたいと思うことと、実際に動き出すことの間には距離があります。

相談現場で挙がるブレーキは、だいたい次の4つに集約されます。

技術が鈍っているのではないか

最も多い不安です。

正直に申し上げると、鈍ります。
特にスピードと持久力は落ちます。

ただ、落ちるのは主に手の速さと勘であって、理論や手順そのものではありません。
実際、私自身も復帰前に不安で仕方なかったのですが、現場に立って2週間ほどでリズムはかなり戻りました。

美容業界全体で見ても、ブランクからの復帰は珍しい話ではなく、リクルートが運営するホットペッパービューティーワークの解説記事でも、ブランク後の復帰は準備次第で十分に可能だと整理されています。

心配であれば、面接時に「復帰前の技術研修はありますか」と単刀直入に聞いてください。
きちんとした会社ほど、この質問を嫌がりません。

体力がもたないのではないか

これは技術より現実的な問題です。

エステティシャンの仕事は立ち仕事で、施術以外にも準備や片づけ、タオルの洗濯といった作業が入ります。
ブランク中に落ちた体力で、いきなりフルタイムに戻るのは正直おすすめしません。

だからこそ、最初から週3日や時短で入れる職場かどうかを、条件面の最優先に置いてほしいのです。

子どもの急な発熱にどう対応するか

保育園からの呼び出しは、予定できません。

ここで確認すべきは「制度があるかどうか」ではなく「使っている人がいるかどうか」です。
看護休暇の規定があっても、実際に誰も取っていない職場では取りにくいものです。

面接では、次のように聞くと実態が見えます。

  • 直近1年で、看護休暇を実際に取得したスタッフは何人くらいいますか
  • お子さんがいるスタッフは、店舗に何名いらっしゃいますか
  • 急な早退が出たとき、施術の引き継ぎはどうしていますか

3つ目の質問への答えが具体的な職場は、実際に運用できていると考えていいです。

面接で退職理由をどう説明すればいいか

意外とここで止まる方が多いです。

「出産で辞めました」だけだと、採用側は「また同じ理由で辞めるのでは」と考えます。
辞めた理由ではなく、いま働ける状態にあることを話すのがコツです。

例文を挙げます。

前職は出産を機に退職しました。
現在は子どもが保育園に入り、平日の10時から16時は安定して勤務できる状況です。
送迎は夫と分担していて、急な発熱の際は近くに住む母にも協力を頼める体制を作っています。
ブランクは3年ありますので、技術面はもう一度学び直すつもりでいます。

伝えるべき要素は、勤務可能な時間、緊急時の体制、学び直す姿勢の3点です。
これが揃っていれば、ブランクそのものはほとんど問題になりません。

復職の受け皿は、この数年で確実に変わってきました

不安の話ばかりしましたが、環境の側も動いています。
むしろ、ここ数年の変化は無視できないほど大きいです。

辞めた人を呼び戻す「アルムナイ採用」の広がり

アルムナイ採用とは、一度退職した社員を再び雇う仕組みのことです。

マンパワーグループが2022年1月に企業の人事担当者400人を対象に行った調査では、アルムナイ採用を導入している企業は28.0%でした。
雇用形態は正社員が77.7%を占めています。

企業側から見ると、経験者は教育コストが低く、社風のミスマッチも起きにくい。
だから戻ってきてほしい、という動機は極めて実利的です。

つまり、あなたが「戻りたい」と思う気持ちと、会社が「戻ってきてほしい」と思う事情は、いま噛み合いやすい状況にあります。

法制度も2025年に動きました

育児・介護休業法の改正が、2025年4月と10月の2段階で施行されました。

2025年10月施行分では、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者について、事業主が柔軟な働き方を実現するための措置を2つ以上選んで講じることが義務づけられています。
あわせて、本人の意向を個別に確認することも求められるようになりました。

制度の詳細は厚生労働省の育児・介護休業法についてにパンフレットとQ&Aが公開されていますので、面接前に一度目を通しておくと、条件交渉のときに話が早くなります。

また、育休からの復帰や再就職を考える人向けに、厚生労働省が仕事と育児カムバック支援サイトという情報提供の窓口も用意しています。
体験談や相談窓口がまとまっているので、まだ誰にも相談できていない段階の方には入口として使いやすいはずです。

大手サロンが「元社員に戻ってきてほしい」と動き始めた事例

具体的な例を挙げます。

たかの友梨ビューティクリニックを運営する株式会社不二ビューティは、2025年8月、退職者とつながり続けるためのプラットフォームとしてタレントマネジメントシステムを導入したことを発表しました。

発表内容によると、それまでは在職スタッフの紹介によって年間数名の再雇用を行っていたものを、退職者の経歴やスキルの情報を管理し、人事制度や求人情報を定期的に届ける形に切り替えたとのことです。
想定されている働き方として、時間限定の求人、期間限定の求人、スポット勤務が挙げられています。

背景にあるのは「特殊な技術を持ったエステティシャンに、働き方を変えて戻ってきてほしい」という考え方だと説明されています。

この会社は2024年12月時点で従業員721名、70店舗を展開する規模です。
これだけの規模の会社が、辞めた人を採用の対象として正面から扱い始めたという事実は、業界全体の流れを示していると思います。

実際にここで働いていた方の視点も参考になります。
元社員の方が書かれたたかの友梨の社員として復職できる仕組みをまとめた記事では、子育て中のママの目線から、この制度が働く側にとってどういう安心材料になるのかが整理されています。

企業の発表文だけではわからない温度感が伝わってくるので、同じ立場の方は一度読んでみると判断材料が増えるはずです。

なお念のために付け加えると、エステティックサロン市場そのものは決して追い風ではありません。
矢野経済研究所の調査によれば、2024年度の国内エステティックサロン市場は3,043億円で、5年連続の前年度割れとなっています。

市場が縮む中で人材の確保が難しくなっているからこそ、企業が経験者に目を向けている、という構造も同時に理解しておいたほうがフェアだと思います。

戻る前に確認しておきたいこと

気持ちが固まってきたら、求人票を見る前にこの表で自分の条件を言語化してみてください。

面接で聞くべきことが自然に決まります。

確認する項目具体的に決めておくこと
勤務できる時間帯何時から何時までなら安定して働けるか
勤務できる日数週何日か、土日はどうするか
緊急時の体制子どもの発熱時、誰が対応できるか
通勤時間の上限保育園のお迎えから逆算して何分までか
譲れない収入月いくらあれば続けられるか
技術研修の要否学び直しが必要か、独学で戻せるか
雇用形態正社員か、パート・スポットから始めるか

ここで大事なのは、全部を満たす職場を探すことではありません。
どれを優先し、どれを妥協するかを自分で決めておくことです。

これを決めずに求人を眺めると、条件の良し悪しではなく「なんとなく良さそう」で選ぶことになり、結果として続かないケースが多いというのが、相談を受けていての実感です。

いきなり正社員に戻らなくてもいい

もうひとつ、よくお伝えしていることがあります。

戻り方は一段階ずつでかまいません。

  • まずはスポット勤務や短期の仕事で、現場の感覚を取り戻す
  • 週2〜3日のパートで、生活リズムとの相性を確かめる
  • 続けられそうなら、時短の正社員に切り替える

この順番で戻った方は、定着率が明らかに高いです。
逆に、ブランクからいきなりフルタイム正社員に戻って半年で疲弊してしまった、というご相談も少なくありません。

先ほど紹介したような時間限定・スポット勤務の受け皿が増えていることは、この段階的な戻り方をやりやすくしてくれます。

「戻らない」という選択も、間違いではありません

最後に、これだけは書いておきたいと思います。

もう一度やりたいと思ったからといって、必ず戻らなければいけないわけではありません。

「あの仕事が好きだった」という気持ちと、「いまの生活で続けられる」という現実は、別の話です。
その2つを混ぜてしまうと、判断を誤ります。

私が相談を受けた方の中には、じっくり考えた結果、サロンには戻らず化粧品メーカーの販売職に進んだ方もいます。
その方は「肌に触れる仕事ではなくなったけれど、人がきれいになる瞬間には立ち会えている」とおっしゃっていました。

エステティシャンとして培ったものは、施術台の上でしか使えないものではありません。
接客、カウンセリング、皮膚の知識、悩みの聞き取り方。
どれも別の場所で通用します。

大事なのは、「戻りたい」という気持ちに蓋をしないことです。
蓋をしたまま何年も過ごすと、その気持ちは後悔に変わってしまいます。

一度きちんと向き合って、それでも戻らないと決めたなら、それは立派な結論です。

まとめ

エステティシャンを辞めた人が「もう一度やりたい」と思う瞬間について書いてきました。

要点を振り返ります。

  • 生活関連サービス業は離職率も入職率も全産業平均より高く、出入りの多い業界。戻ることは特別ではない
  • 「もう一度やりたい」と感じるきっかけは、誰かの肌に触れた瞬間、客として施術を受けた瞬間、子どもの手が離れた瞬間などに集中している
  • ブレーキになるのは技術・体力・子どもの急病・面接での説明の4つだが、いずれも準備で対処できる
  • アルムナイ採用の広がりと2025年の法改正で、復職の受け皿は数年前より確実に整ってきている
  • 戻り方は段階的でいい。スポットやパートから始めて、続けられるか確かめる方法がある

「まだ迷っている」という段階で構いません。

まずは自分がどの時間帯なら働けるのかを紙に書き出すところから始めてみてください。
それだけで、漠然とした気持ちが具体的な選択肢に変わっていきます。

あなたの手が覚えている技術は、思っているよりずっと価値があります。

最終更新日 2026年7月26日 by hlodgi

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